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2007.6.6
膵臓と急性膵炎について【副院長】

1)膵臓とは

 膵臓は膵液などの消化酵素を消化管に分泌する外分泌機能と、インスリンなどのホルモンを血液中に分泌する内分泌機能を併せ持つ唯一の臓器です。長さ14〜16cm、幅5cm程度で上腹部の背側、十二指腸係蹄から脾門部にかけて第1〜2腰椎の高さを横走しています。

2)急性膵炎とは

 もちろん膵臓の急性炎症ですが、炎症の波及が膵局所あるいは膵周辺臓器に限局し、一過性の腹部症状で軽快する軽症急性膵炎もあれば、サイトカイン反応から全身に炎症反応が広がり遠隔臓器障害を引き起こし、生命の危険を伴うような重症膵炎もあります。

3)疫学

 年間受療者数は約2万人。

 そのうち重症急性膵炎は約5000人。

 10万人あたりの発症頻度は15.4人。

 男女比は約2:1

 発症のピークは男性では40〜60歳、女性では60〜80歳とやや女性のほうが高い傾向があります。

 これは発症の誘因の差が関与していると考えます。

4)成因、発症の誘因

 男性は飲酒がきっかけとなるアルコール性が約4割(重症急性膵炎では約5割)

 女性では胆道結石が総胆管末端にかん頓しておこる胆石性が約3割。

 発症の原因がはっきりしない場合が約半数ですが、総じてアルコール多飲、多量の脂肪摂取などが原因となることが多い。

5)急性膵炎の経過

 急性膵炎ではトリプシノーゲンの活性化により膵臓の自己消化が起き、激しい上腹部痛をきたします。

 大多数は軽症例で絶飲食により自然軽快しますが約10%で重症化し、その20〜30%の高い致命率です。

 重症化の分岐点は発症早期にあり、初期治療が重要となります。

6)重症急性膵炎の病態

 トリプシノーゲンが活性化し、炎症は急速に膵周囲から後腹膜全体へと広がり、心、肺、腎など全身の臓器機能に異常をきたします。

 そのプロセスはきわめて早く多くの重症例は発症3日以内に重症化の指標が陽性となり特に死亡例の40%は発症5日以内に死亡しています。

7)急性膵炎の死亡率

 急性膵炎の死亡率は約7%

 そのうち重症急性膵炎の死亡率は1982〜1986年には30%、1996年には27%、1998年には22%と徐々に治療成績は向上していますが依然として高率です。ただし発症2週間以内の死亡率は1982〜1986年には52%、1996年には29%と著明に減少してきています。

8)急性膵炎の臨床症状

 初発症状は上腹部痛が95%。

 その他背部への放散痛、食欲不振、発熱、嘔気、嘔吐などですが特異的な症状はないため、他の急性腹症との鑑別が必要です。

9)重症急性膵炎の臨床症状

 高度の炎症症状。

 遠隔臓器障害や重篤な感染を合併するため、ショック、呼吸困難、乏尿、無尿、発熱、DIC(播種性血管内凝固症候群)などを呈することがあります。

 理学所見として発症初期(48時間以内)に腹膜刺激徴候、麻痺性イレウス、腹水貯留などが高率に見られます。

10)急性膵炎臨床診断基準

 ・上腹部に急性腹痛発作がある。

 ・血中、尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇がある。

 ・画像で膵に急性膵炎を疑う所見がある。

 上記3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性腹症を除外したものを急性膵炎とする。(厚生労働省特定疾患難治性水疾患調査研究班 1990)

11)厚生労働省重症度スコア

 1990年に提唱された重症度判定基準に全身炎症反応症候群(SIRS)と年齢を加味し、スコア化して判定します。5項目の臨床徴候、10項目の血液検査成績、CTを用いた画像診断、予後因子としてSIRS、年齢をスコア化して27点満点で5段階のstage分類(0〜4)を行います。

 これは予後とよく相関するため重要です。

12)急性膵炎の死因

 最も多いのは臓器不全、ついで心循環不全、敗血症。

13)急性膵炎の重症度に応じた治療指針

 軽症(stage0)、中等症(stage1)は1次医療機関での診療。ただし複数の並存疾患を伴う症例や膵壊死を伴う症例、感染を併発した症例、重症度が増加する症例では2次、3次医療機関での診療が必要。

 重症膵炎は2次、3次医療機関でICU管理をする必要があります。

14)急性膵炎の治療

 第一の目標は重症急性膵炎による死亡を防ぐことで、第二の目標は軽症ないし中等症の急性膵炎の重症化を防ぐことです。

 初期治療は急性循環不全に対する十分な補液療法と抗酵素療法、疼痛治療。

 いずれにせよ重症度の判定を早期に行い、重症例は速やかに高次医療機関へ搬入して治療することが望ましいといえます。

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